菅野沖彦先生の思い出

 それは2005年7月3日のことだった。菅野沖彦先生がみえるというので、私は札幌でおこなわれるオーディオショウ(CAVIN大阪屋主催)に喜び勇んで出かけた。私はいい歳をして、すこし興奮していたように思う。会場は満席だった。菅野先生は、私が思っていたよりもずっと小柄であった。あの強い意志を感じさせる眼差しや、その文章から受ける印象から、私は勝手に大きくがっちりとした体格であると思い込んでいたの…

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入院と音楽

 十年程前から、幾度となく入退院を繰り返している。病気の治療や手術は、痛く苦しいことが多い。ときには辛くて、眠ることも眼を開けていることもできないことがある。耐えること以外はなにもできないのだ。だから鎮痛薬によってわずかに痛みや苦しさが鎮まると、疲れ果てて眠るのだ。あるとき私はそんな眠りから目覚めて、数日振りに口にものを入れた。それは、オレンジのジュースだったろうか。そのとき身体をめぐった新…

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B&W 803 Diamondとその音

J P スヴェーリンク 《フランス語の聖歌・シャンソン集》 デイヴィッド ジャンセン(オルガン) オフィラ ザカイ(リュート) カペラ アムステルダム ダニエル ロイス(指揮) 録音:2008年10月 輸入盤 harmonia mundi HMC902033 ●803 Diamondがようやく納得できる音で鳴るようになった。今年の1月のことである。2年半程の時間…

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ADKオーディオラック ソリッドシリーズ SD-2066ROに手を加えて音質改善をはかる

●私はADKオーディオラック ソリッド シリーズのもっとも小さいモデルSD-2066ROを2台使用している。1台目は20年程前に、2台目は10年前に購入した。とても息の長い製品で、現在、型番はSD-2066ROWとなっている。その変更点をメーカーに確認したところ「棚板取付用の孔を増やし、例えば…

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McIntosh MC452

●オーディオにおいて大きい音と小さい音を美しく再生することは、難しいことのひとつである。とても大きい音であっても、硬くなったりきつくなったりしない音を、混濁の無い澄んだ豊かな音を聴きたい。そんな音には、かえって静けさすら感じることがあるものだ。又、とても小さい音であっても、貧弱になることなく、がっちりとした立体感・実在感がある音を、浸透力が漲る音を聴きたい。紙に水彩絵具の様々な色が沁み込み混…

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B&W 803 Diamond  DG-48によるセッティングとイコライザーカーブの作成

●いよいよスピーカーのセッティングにとりかかる。これはとても重要な作業のひとつだ。以前は自分の耳だけを頼りに、スピーカーを少し動かしては何枚ものレコードを聴くということを繰り返していた。ブックシェルフタイプのスピーカーでは、スピーカーの位置の違いに加えて、スタンドの高さの違い・スタンドの材質や構造の違い・スピーカーの底面とスタンドの接する面積の違い等々によっても音はたいそう変化する。選択肢は無数…

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B&W 803 Diamond

 2012年の10月6日、B&Wの803 Diamond(チェリーウッド)を部屋に入れる。よく晴れた爽やかな秋空が心地良い。お世話になっているオーディオ店では何度も試聴させていただき、おおよその特徴をつかんでいるつもりではあるが、結局のところ店頭で聴くことのできる音は殆どの場合、様々な要因から、その機器のほんの僅かな一面・ヒント・仮の姿、とでも言うべきものでしかない。スピーカーに限らずオーデ…

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ラックスマン SACDプレイヤー D‐08 

 部屋に射し込む陽の光はすっかり冬になった。今年は例年になく初雪が遅いということだが、焦らずとも、もうじき降り積もるだろう。  D-08を導入したのは今年の1月15日である。私の使っている機器の中で、もっとも新しいというか新参者であるが、そろそろ1年を迎えて、その音等について少し書きたいと思った。  あるオーディオ機器の音について、比較するものなしに、その機器単独で語ることはできない。例…

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マッキントッシュとその音  C46 MC402

 私はマッキントッシュのアンプ、C46とMC402をつかって6年になる。6年という歳月が短いのか長いのかわからない。しかし、ふだん特別に意識することなく聴いている自分の音の中に在る『マッキントッシュサウンド』とでも言うべきものを、ことさら感じさせられる機会があり、私はちょっと考え込んでしまった。  私は先日、札幌で開催されたあるオーディオショーに出向いた。ずいぶんと長い時間、様々なメー…

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私の愛聴盤〈3〉  J・S・バッハ 平均律クラヴィーア曲集

J・S・バッハ 平均律クラヴィーア曲集 全巻 BWV846-893 スヴャトスラフ・リヒテル(pf)  録音:1972・73年 国内盤 メロディア ビクターエンタテインメント VICC-40210~3  アインシュタインは「神がサイコロを振るとは思えない。」と言った。しかし、私にはわからない、果たして神は存在するのか、死んだのか、もともと存在しないのか。私自…

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遮音

 音楽はそれを聴いている本人にとってはありがたいものであるが、聴こうと思っていない家族にとっては苦痛である。うちの奥さんはクラシック音楽が嫌いである。とくにバッハが苦手だ。バッハの鍵盤楽曲を聴くと「頭がガチャガチャになる。」そうだ。たぶんポリフォニックな音の構造がそうさせるのだろうと思う。ブラームスのシンフォニーで、弦楽器のうねるような響きに身を委ね、金管楽器の咆哮に脳が熱い汗を飛び散らせる…

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無音・沈黙・静寂を聴く  Kさんの言葉に寄せて

 Kさんの言葉には、音楽を聴くことにかかわっての大切な問題が、いくつも投げかけられている。音楽や美術に於いて『問題』というものは、答をみつけ解決しておしまい、というたぐいのものではない。その意味で、数学等とは質が違う。それは、ある答を見いだしつつ、その答には、また新たな問題が内包され提起されていなければならない。  「君はどうして何時も、質問にたいして質問で答えるのかね?」「それは、私には、全…

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カラヤンのモーツァルト

 『最後にどうしても「レクイエム」について書かないわけにはゆかないが、誰になんと言われても私は、カラヤンのあの、悪魔的に妖しい官能美に魅せられ放しでいることを告白せずにはいられない。この演奏にはそして、ぞっとするような深淵が隠されている。』 〈 瀬川 冬樹 著 “虚構世界の狩人 ―私的オーディオ論―” “夢の中のレクイエム ―私のモーツァルト―” 共同通信社 発行 昭和55年 〉から …

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私の愛聴盤〈2〉  ミケランジェリのドビュッシー

 ドビュッシーの音楽は豊饒で深い沈黙から生まれる。死のない生があり得ないように、沈黙のない音楽もまたあり得ない。ドビュッシーの音楽は、そのことをことさら際立てて聴く者に意識させる。ふだん私は、沈黙の声を聴くことを怠っているのだろう。だからこそ、ドビュッシーの音楽によって、今さらながらのように沈黙を意識させられるのだ。死は生を否定するもの、或は生の反対物ではない。死について思索をめぐらすことは、生…

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音楽と戦争  ジェルジュ・リゲティ(1923-2006) 

《ヴィーン・モデルン》 ヴォルフガング・リーム  出発 ジェルジュ・リゲティ  アトモスフェール/ロンターノ ルイジ・ノーノ  愛の歌 ピエール・ブーレーズ  ノタシオンⅠ‐Ⅳ クラウディオ・アバド指揮  ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 ウィーン・ジュネス合唱団  合唱指揮:ギュンター・トイリンク 録音:1988年 国内盤 D…

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J・S・バッハ モテット集 マルクス・クリード指揮 ヴォーカルコンソート・ベルリン トビアス・シャーデ(org) リチャード・マイロン(vn) ヤン・フリーヘイト(vc) 録音:2010年 輸入盤 harmonia mundi  HMC902079  音楽ソフトは、演奏家とスタッフが渾身の力を振り絞って創り上げた作品である。一点物の絵画などとは違い、複数つ…

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音の記憶〈1-2〉  LX38u 或いは 上原晋 氏

マイルス・デイビス カインド・オブ・ブルー マイルス・デイビス tp ジョン・コルトレーン ts キャノンボール・アダレイ as ビル・エヴァンス p ウイントン・ケリー p ポール・チェンバース b ジミー・コブ ds 録音:1959年 国内盤 Columbia SONY RECORDS  SRCS9104  オーディオで最も音を支配するのはス…

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逃避

Rover mini Mayfair Ⅱ 初度登録年月=1990/8 全長=3055㎜   全幅=1440㎜   ホイールベース=2035㎜ トレッド前=1235㎜ トレッド後=1200㎜ 車両重量=680㎏ 直4OHV 999㏄ 最高出力=42ps/5250rpm 最大トルク=6.8㎏ m /2600rpm S…

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録音の良否〈1〉  ゴールウェイのモーツァルト

W・A・モーツァルト フルート協奏曲第1番 ト長調 K.313 フルート協奏曲第2番 ニ長調 K.314 フルートとハープのための協奏曲 ハ長調 K.299 ジェイムス・ゴールウェイ(フルート) マリーサ・ロブレス(ハープ) ネヴィル・マリナー指揮 アカデミー室内管弦楽団 録音:1995年 国内盤 RCA BMG JAPAN  BVCC-37635  …

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私の部屋の紹介〈1-2〉

 私は強迫性障害(強迫神経症)をもっている。症状は幼児の頃からみられた。玄関の上がり框〈あがりかまち〉にたいして自分の脱いだ靴が正確に垂直になったと確信するまで、㎜単位の修正をつづけた。上がり框は直線だが、靴は直線ではない。玄関にうずくまり、ときには数十分ほどかかることも珍しくなかった。或いは、なにか取り返しのつかないことをしたような感覚、謝罪して済むようなことではない大変な過ちを犯したような感…

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私の部屋の紹介〈1-1〉

 これが私の部屋であり、機器である。信号の流れる順に列記すると… ○SACDプレイヤー LUXMAN D‐08 ○コントロールアンプ McIntosh C46 ○イコライザー  Accuphase DG-48   ○パワーアンプ McIntosh MC402 ○スピーカー Sonus faber CREMONA となる。大切なのは、何をつかっているかではなく、ど…

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所有すること

 もうじき春が訪れる。庭の雪もなくなり、クロッカスや水仙が咲きはじめ、チューリップが葉を伸ばすだろう。穏やかな風に揺れる花を眺めることは、気持の良いものだ。きっと私が生きているというこは、この『揺れる』ことと同じなのだろう。肉体は物質だが、生は物質ではなく出来事であるのだから。  物を所有するということは、物に所有されることでもある。私を所有する物たちは、オーディオの機器に限らず、美しい。とき…

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